アンビデックス代官山
DATA
所在地  : 東京都渋谷区猿楽町
竣工   : 2001年3月
用途   : 店舗
敷地面積 : 138.16㎡
建築面積 : 94.38㎡
延床面積 : 218.36㎡
建蔽率  : 68.30%
容積率  : 158.00%
階数   : 地上3階
最高高さ : 9.85m
主体構造 : S造(重量鉄骨造)

 代官山を訪れる人たちは、常に新しい出会いや発見を求めている。大通りから、建物や その中にあるショップを一目で認知できるものには興味がない。路地に一歩も二歩も入っ て、自分で見つけたものに価値を感じるようである。この街はこんな人が集まるところである。

敷地は、旧山手通りから、以前私が設計したスピークフォー・ビルの横の路地を入った 西側の角地である。この建物の用途は、アパレルメーカーが自社使用するブティックとカフェ。ファッションビルにおいては、店舗側は単一の空間を求めやすい。そのほうが内装 を変えやすいからである。特にテナントビルであれば建築家のほうも、単なる箱(つまり 入れもの)をつくって、はいどうぞ好きに内装して下さい、というようなことになりやすい。今回私は、そんな建築にはしたくなかった。

 この建物では、人が目的とするところに行こうとする経路をチューブ化する、という考 え方を導入した。チューブはわざと狭くすることによって、チューブをくぐり抜けた時の開放感が増す。スタッフも客も、2階のカフェと3階に行こうとする時には必ずこのチュ ーブを通らなければならない。スタディーは一貫して、このチューブの模型を製作するこ とによって行った。チューブ以外は透明なガラスの箱でよい。その他は街だと考えてもよ い。

施主は与えられた空間の内装をどうしようかと四苦八苦していたが、私自身にとっては実のところ、そんなことは変化してやまないこの代官山の街の一部に過ぎない。人々の動きを面 白くする仕掛けこそ、この建築にとって重要なことだと思った。  建物は比較的大きくない。1フロア30坪そこそこである。チューブは、有効幅がやっと 80cmのものを階段化したり、広げてみたりしている。できるだけ歩行者の体感距離を稼ごうとしているので、2階のらせん階段部では、当然、Uターンしたりしている。

 訪れる人々は、それぞれ居心地の良いところを探すのである。目的とするところに着くことよりも、その過程が重要である。むしろこの街は、それを楽しみに来る人たちが多いにちがいない。この建物は洋服とコーヒーを売るショップであるが、さほど大きくはない この建物の中に、どれだけこの街の出会いや発見を多くつくることができるかがテーマで あった。

既に、旧山手通りはヒルサイドテラスによって完成度の高い街並みになっている。完成度が高いがゆえに人々はこの表通りを避け、旧山手通りと八幡通りに囲まれた固定化されない路地裏のエリアに入り込んでいるのが現状である。旧同潤会アパートの跡地である代官山駅前の再開発は、乾いてしまっているからだ。
 スピークフォー・ビルを設計してからは、街を意識するようになった。なにも多様なデザインの建物が数多く存在すればよいということでなく、多様な発見や出来事を人々は求めている。その仕掛けを考えることが重要だと、今回の設計を通 して強く思った。