アンビデックス本社ビル
DATA
所在地  : 東京都渋谷区元代々木町
竣工   : 1997年11月
用途   : 事務所
敷地面積 : 433.22㎡
建築面積 : 276.22㎡
延床面積 : 1140.29㎡
建蔽率  : 63.75%
容積率  : 236.45%
階数   : 地下2階 地上5階
最高高さ : 18.90m
主体構造 : RC造・S造

 密集して建つマンションやアパート、さらに木造戸建て住宅群をT字型にぽっかりこそぎとったような敷地に、この建築は計画された。暗渠になっている南側水路にかろうじて面しているものの、その向こう側には近隣商業の容積をめいっぱい利用した建物が林立している。
 この建築は、創立10年を迎えるアパレルメーカーの本社屋として、商品の物流、ショールーム機能および洋服のデザインと本社事務所機能が要求された、まず建蔽率の影響を受けない地下を物流スペースとして確保した。地下2階まで利用するため、どうしても厚くなってしまう外周の土留めの壁を、建物全体を支えるストラクチャーにしようと思った。そのまま地上に立ち上げられた壁は、まわりのアパートや木造住宅のスカイラインでストップする。ここに厚さ500㎜のヴォイドスラブを置き、そこから上に、デザイン部門や事務的スペースを設けていく、このレベルからようやく、外からの採光や町並みといった環境が取り込まれる。いったん立ち上げられた土留めの壁は、地下2階から11mにおよぶ。この大きな箱の中に、物流の床、1階ショールームの床をそれぞれ適正なレベルにフラットスラブを置いていく。すでに土留めの壁の大きな箱で構造的な地震力の負担をしているので、ここでは床荷重のみの負担となる。1階から地下物流に延びる細長い階段で完全に緑を切られた1階の床には、5mのガラスが立ち上げられ、コンクリートの箱の中に、ガラスの入れ子が出現する。地下の物流スペースに下る車路と、入口アプローチを挟むかたちで立ち上げられた壁は、構造的に建物の短手方向を支える有効なバットレスになっている。またトラックによる搬出入の喧噪を和らげるために、トラックをすっぽりと包むように車路の上にコンクリートの屋根を架けた。この屋根は階段状になっていて、ショールームをオーディとする屋外の観客席となる。ここでは新作のファッションショーや展示会などのイベントが催される。4.5mのプロセニアムには開口5mの電動のガラス戸が設けられている。これがT字型の敷地が生んだ最大の魅力となった。
 ヴォイドスラブから上のデザイン・事務スペースは、鉄骨のフレームとガラスの皮膜により、下部のコンクリートの内的な箱とは対照的に、積極的に周りの環境を取り込むようにつくられている。3階レベルから上の複雑な日影規制によってこの形態決定されているが、鉄骨柱の柱脚をピンにすることにより、梁上にもランダムに対応でき、柱と梁は方杖ブレースで固定されている。
 社名がアンビデックスというこのアパレルメーカーは、「両義性」という意味を取ったものだという。10代から20代前半までの女性をターゲットにした洋服をつくっていく中で、子供から大人に移り変わっていく曖昧な気分を、その子供と大人の両方の気分を大事に汲み取っていこうとすることがこのメーカーの重要なコンセプトになっている。
 敷地の条件や構造的処理から、コンクリートの内的な箱と、ガラスの開放的な箱の相反する空間性に、このメーカーのコンセプトと一致したものを見出せたことが、私とクライアントが共有できた最大の財産だと思っている。