はちのす保育園
DATA
所在地  : 埼玉県鶴ケ島市
竣工   : 1996年2月
用途   : 保育園
敷地面積 : 162.33㎡
建築面積 : 100.51㎡
延床面積 : 179.67㎡
建蔽率  : 61.91%
容積率  : 110.68%
階数   : 地上2階
最高高さ : 8.45m
主体構造 : S造(重量鉄骨造)

 今回斉藤公子先生に建築の監修をお願いしている。斉藤先生は戦後、戦災児収容施設に保母として住み込み、貧困層の子供達の、まだ厚生省の指導要綱もできていないころから保育に取り組み、戦後日本の高度成長とともに保育のあけぼのを築いていった保育界の母と呼ばれている人である。
 この保育園は関東地区でもめずらしい、0〜1歳児専門の保育園である。敷地は住宅地であるため50坪弱ほどしかなく、比較的密集した環境であるため、採光と通風や視界を確保するためには2階に保育室をということになってしまった。そこで私は、斉藤先生のいう「段差」をメインにつくってやれと思った。プランのほぼ3分の1に当たる面積が緩い階段である平面図を見せたとき、斉藤先生は「これでやりなさい」と言ってくれた。
「2階に保育室を」というのはわれわれには大変な負担になった。当初木造で考えていたが、基準法上、耐火構造以上ということになり、鉄骨造にした。できるだけ緩い階段で2階に持ち上げられた保育室は、可能な限りのヴォリュームを確保し、階段室も道路斜線いっぱいの高さまでガラスの開口を確保した。柱は鉄骨の一方向ラチスとし、それぞれ弱軸方向に直角に向きを変えることでバランスを保っている。子供がハイハイするであろうところはできるだけ開口をとり、外の風景が見られるようにした。カーブする「ほふく路」は、保母さんがおしめを取り替えるときにも便利なことになっていることに気づいてくれるだろうか。2階のシリンダー状の空間はできるだけ子供のスケールで心地よい昼寝の空間になってくれるだろうか。ほふく路脇の開口から子供はわれわれに向かって手を振ってくれるだろうか。
この保育園を囲む人たちの、さまざまな思いを込めて「はちのす保育園」は完成した。