SPEAK FOR
DATA
所在地  : 東京都渋谷区猿楽町
竣工   : 1999年2月
用途   : 店舗・ギャラリー
敷地面積 : 251.04㎡
建築面積 : 175.71㎡
延床面積 : 738.35㎡
建蔽率  : 69.99%
容積率  : 294.11%
階数   : 地下2階 地上3階
最高高さ : 10.70m
主体構造 : S造 RC造

 代官山の旧山手通りに面して建てられた店舗およびギャラリーである。建て主はこの地に建てることを長年の夢としており、商品を売るという目的と、洋服のデザインで成り立っている企業の姿勢といったものを、どう表現するかというテーマを打ち合わせていた。
 敷地は、槙文彦氏によるヒルサイドテラスを貫通する旧山手通りに面しており、代官山駅より八幡通を抜けてヒルサイドテラスF棟に抜ける2項道路とつながる東側4m道路の3面に面する条件である。既に完成されているヒルサイドテラスの町並みに緩やかに参加することと、出会いや発見を求める人々に対してどう自己表現するかが、建て主と私の共通のテーマとなって、暗黙の合意がなされていた。
 この地域は十分な法定容積300%のわりには、2種低層という高さのヴォリュームが得られないところで、5層のうち2層を地下に求めた。敷地ほぼ全体を2層分総堀りにして、厚さ50㎝のコンクリート壁で地下部分のヴォリュームと建物の剛性を確保する。旧山手通りから東側4m道路にそって、2.3m幅の外部階段を長手いっぱいに地下に向けて緩やかに引き延ばした。地下2階のギャラリーと地下1階の店舗は、外部階段とはガラスによって仕切られるので、東側道路から内部がよく見え、採光もよく、地下ながら明るい空間ができた。1階と地下1階の床はそれぞれフラットスラブにより、鉛直荷重のみを3本のコンクリート柱にて地中の梁に伝達する。
 地上3層部は、幸いにして耐火要求がないことで、スチールによるハイブリットな構造表現を試みた。ツインのフラットバーによって各柱・梁は構成されている。36 ×300㎜のフラットバーは羊羹形の無垢のスチールで、溶接により繋がれており、単一の部材として成立している。柱は1,800㎜ピッチで配置されているが、建物の長手方向の横力に対して、このフラットバーの断面積で対抗することになる。従って柱中心軸より離れれば離れるほど、フラットバーの断面積は小さくなり、鉄骨の総重量も軽くなるのだが、スレンダーな表現上限りなくフラットバーどうしは狭めておきたい。結局、ファサードの「石のカーテン」をライトアップするための照明を挟む最小の寸法(75㎜)で断面を決定した。こうした作業は、単により少なく軽量なものでつくるという合理性と、表現上のデザインとの相反する近代の矛盾を考えるよい機会となった。
 地上部のヴォリュームの形成は、平面型を大胆にカットすることによって決定した。フレームとは無関係な方が、よりフレームが露になって面白い。1階には柔らかい光に包まれるガラスブロックによる卵型のヴォリュームを置く。これより1段上がった2階の床は卵型に切り取られるが、3階床よりスチールロッドで吊ってしまえば、カットした床を浮かすことができる。3階はV型にカットされるが、ツインのフラットバーによる柱と梁のジョイントが現れ、発光する石のカーテンとのコントラストが美しい。
 通りに面して整然とした印象を与える石の被膜は、鉄骨柱から伸びるステンレスパイプの腕によってカーテンウォール化される。地上部ヴォリュームとは縁が切れていたほうがその存在は強い。石は薄くスライスされ、その重量感を削ぎ落とされ、それまで地中の届かなかった光を、昼は内部に、夜は外部に外部に向けて透過させる媒体となって存在する。