高崎の屋根
DATA
所在地  : 群馬県高崎市片岡町
竣工   : 1989年4月
用途   : 診療所・ギャラリー
敷地面積 : 482.66㎡
建築面積 : 123.31㎡
延床面積 : 11296㎡
建蔽率  : 25.50%
容積率  : 23.40%
階数   : 地上1階
最高高さ : 6.05m
主体構造 : S造

 初めて敷地を見せられたとき、そこはすでに庭師による庭空間の環境が成り立っていた。26年もの間、手入れされた庭空間は、いじらないようにしようと思った。
 プランは、施主の母上が植えられた中央の松の木を残し、待ち合い室と診療室をギャラリーで繋ぐように、自然に決まっていった。
 屋根は、できるだけ薄い自由な被膜を架けたかったので、柱より吊り材で吊り下げられるようにした。柱は診療に差し支えない最小のモデュールで立てられ、基本的な外力に対しては柱のみが負担するので、プラン上診療の動線や便所のコアなど、自由な配置が可能になった。空間は、屋根の形のままにヴォリュームが保たれ、庭師が育てた庭と一体となるように目論まれている。
 構造的には、柱よりCT鋼を背中合せにした梁が4本伸びており、その末端を4本の吊り材で吊るブロックが、ジョイント金物で繋ぐスタイルになっている。ジョイントはピンジョイントなので、梁を吊り材で吊っていればどんな角度でも可能であり、結果的に不定形の屋根が可能になった。しかも、柱は基本的に独立柱であり、外力に対しても柱が全て負担するので、梁を4本の吊り材で吊っていれば、そのブロックと繋がっていなくても、構造的に破綻しない。だから、屋根に切り込みを入れ、めくり上げるようなことが可能なのである。
 今回、一貫して屋根を架けることのみを考えていたのは、屋根という建築の要素が建築として成立つエネルギーを放つか、確認したかったせいもあったと思う。屋根の下にどのような要素や環境があろうとも、屋根で覆ってしまえば、建築として一つの秩序を保てるはずだと思った。施主はこの建築を使用するにあたって、1枚のカーテンやブラインドもつけずに使用している。上部の欄間より太陽が差し込んでまぶしいとのクレームがでたが、それは冬の1,2時間だけだと分かり、その時だけ暖簾を掛ければよいと言ってくれた。庇が出ているためである。
 今さら庇の効用など確認するよりも、屋根によって保たれさまざまに変化する空間のヴォリュームの心地よさと、庭との空間の一体化など、施主共々十分感じ取れたと確信している。