安さんの家
DATA
所在地 :東京都目黒区碑文谷
竣工:1987年8月
用途:専用住宅
敷地面積:116.30㎡
建築面積:69.23㎡
延床面積:140.35㎡
建蔽率:59.52%
容積率:120.67%
階数:地上2階
最高高さ:6.95m
主体構造:木造

 敷地は、環状7号線から内側にやや入った、目黒区と世田谷区の境界付近に位置している。昨今の地下上昇の折も折、この住宅の計画が始まった。サラリーマンの年収の2倍かけても1坪も買えない土地にも関わらず、第1種住居専用地域、第1種高度地区という、ほとんど暴力と言ってよい状況の中に置かれている。
 1階は新聞配達用の自転車と軽ワゴンを置くスペースを敷地面積一杯に取るというのが条件としてあったため、住居部分はほとんど木造のフレームによって2階に持ち上げられた。最終的には、ちょうどこの土地が1坪分が買えるぐらいの資金で、この住宅はできている。
 この住宅は大きく二つのヴォリュームが、木造のフレームによって持ち上げられたようになっている。一つは奥さんから出されていた条件として、道路より奥まった部分に個室をつくって欲しいということがあり、それに対応する最小の開口を持ち、安全にプライバシーを確保する切り妻のヴォリューム。もう一つは、採光と通風を得るために欠き取られた中庭を取り囲むようにして計画された。玄関ホールと居間食堂のヴォリュームである。ヴォリュームを欠き取った部分は、2階の床にエキスパンドメタルが張られ、そこはピロティから爽やかな風が吹き上げてくる。切り妻のヴォリュームにおいては、寝る部分としての閉じた被膜を、居間食堂においてはできるだけ自由な形態の被膜で覆ってしまおうと考えた。予算や法規上、着色亜鉛鉄板という素材に決め込んだせいもあって、私たちが以前計画していた「トライアングルホール」のサーカス小屋にも出てきたギザギザに切り裂かれたブリキのような被膜を架けることになった。これは、10年で解体してしまうという建物の仮設性を、強く表現したかったからだ。
 それぞれのヴォリュームは、着色亜鉛鉄板やケイ酸カルシウム板といったような、安価で入手しやすい工業製品で覆われている。着色亜鉛鉄板は、プアーな材料の代表選手みたいなものだが、日本の古代よりあるある板金技術に支えられ、自由な形態でもシャープなエッジを得ることができ、今回の屋根には絶対不可欠だった。
 東京は、再生と破壊を繰り返す。緊張と不安が入り交じった状況の中で、もう少し都市の暴力と取り組んでいかなければならないことを、今回の仕事を通して感じとった。